年齢を重ねるとともに、歯が以前よりも欠けやすくなったと感じる方がいるかもしれません。これは、加齢に伴ういくつかの変化が、歯の強度や耐久性に影響を与えるためと考えられます。加齢によって歯が欠けやすくなる主な理由としては、まず「エナメル質の摩耗と菲薄化(ひはくか)」が挙げられます。歯の最も外側を覆うエナメル質は、非常に硬い組織ですが、長年の食事や歯磨きによって、わずかずつですが摩耗していきます。その結果、エナメル質が徐々に薄くなり、外部からの力に対する抵抗力が低下し、欠けやすくなるのです。特に、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、エナメル質の摩耗が早く進む傾向があります。次に、「象牙質の変化」も関与しています。エナメル質の下にある象牙質は、加齢とともに色が濃くなったり、細管が狭窄したり、石灰化が進んだりといった変化が生じます。これにより、歯全体の弾力性が失われ、もろくなる可能性があります。また、「歯の神経(歯髄)の変化」も影響します。加齢とともに歯髄腔(歯の神経が入っている空間)は狭くなり、歯髄の細胞数も減少していきます。これにより、歯への栄養供給が低下し、歯質が乾燥してもろくなる傾向があると言われています。特に、過去に神経の治療(根管治療)を受けた歯(失活歯)は、神経のある歯(生活歯)に比べて水分量が少なく、弾力性が失われているため、より割れやすく、欠けやすい状態になります。「歯周病の進行」も、間接的に歯が欠けるリスクを高めます。歯周病によって歯ぐきが下がり、歯の根元が露出すると、その部分はエナメル質で覆われていないため、虫歯になりやすく、また物理的な力にも弱くなります。さらに、「唾液の質の変化や量の減少」も、加齢に伴って見られることがあります。唾液には、お口の中を潤し、細菌の増殖を抑えたり、酸を中和したり、歯の再石灰化を促したりする重要な役割があります。唾液の分泌量が減ると、お口の中が乾燥しやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが高まり、結果として歯が欠けやすくなることにも繋がります。これらの加齢に伴う変化は、ある程度避けられない部分もありますが、日々の丁寧な口腔ケアと、定期的な歯科検診を受けることで、歯が欠けるリスクを最小限に抑え、健康な歯を長持ちさせることができます。