歯が欠けても痛みがない場合、歯科医師はどのような視点で診察し、診断を下すのでしょうか。痛みの有無は重要な情報の一つですが、それだけで問題がないと判断されるわけではありません。歯科医師は、様々な角度から歯の状態を評価し、適切な対応を検討します。まず、歯科医師は「問診」で、いつ、どのようにして歯が欠けたのか、過去にその歯の治療経験があるか、何か自覚症状(しみたり、噛むと違和感があったりなど)はないか、などを詳しく聞き取ります。次に、「視診」で、欠けた部分の大きさや範囲、形状、色調などを直接観察します。欠けた部分の縁が鋭利になっていないか、周囲の歯ぐきに炎症や腫れがないかなども確認します。この際、探針(先の尖った器具)などを用いて、欠けた部分の硬さや、虫歯の進行がないかなどを調べることもあります。さらに、より詳細な情報を得るために「レントゲン検査」を行うことが一般的です。レントゲン写真からは、肉眼では見えない歯の内部の状態や、歯の根の状態、周囲の骨の状態などを確認することができます。これにより、欠けが神経(歯髄)にまで達しているか、歯の根にヒビや割れ(歯根破折)がないか、根の先に病巣がないかなどを評価します。もし、過去に神経の治療(根管治療)を受けている歯であれば、その治療の状態や、根管充填材がしっかりと詰まっているかなども確認します。これらの診察・検査結果を総合的に判断し、歯科医師は歯が欠けた原因(虫歯、外傷、摩耗、破折など)や、現在の状態、そして今後のリスクなどを評価します。痛みがなくても、例えば小さな欠けでも虫歯の入り口になっている可能性があれば、早期の治療が推奨されます。神経が死んでいる歯であれば、もろくなっているため、被せ物で補強する必要があるかもしれません。歯科医師は、単に「痛くないから大丈夫」と判断するのではなく、将来的な問題を防ぐために、科学的根拠に基づいた診断と、患者さん一人ひとりの状況に合わせた最適な治療計画を提案してくれるのです。