口唇ヘルペスなど、ウイルスが原因の口内炎。つらい痛みに耐え、水ぶくれがかさぶたになり、ようやく治った時、多くの人は、「これで、もう大丈夫」と、安心するでしょう。しかし、実は、それは、戦いの「終結」ではなく、一時的な「休戦」に過ぎないのです。ヘルペスウイルスは、一度、体の中に感染すると、完全に消え去ることはありません。症状が治まった後も、あなたの体の中に、静かに潜み続け、再び、活動を開始する機会を、虎視眈眈と狙っているのです。ヘルペスウイルスは、症状が治まった後、皮膚や粘膜から、神経を伝って、「三叉神経節(さんさしんけいせつ)」という、顔の感覚を司る神経の根元に移動し、そこに、まるで冬眠するかのように、潜伏します。この、潜伏している期間は、ウイルスは活動しておらず、症状も出ませんし、他人にうつす心配も、基本的にはありません。しかし、風邪をひいたり、強い紫外線を浴びたり、あるいは、仕事の疲れや、精神的なストレスが溜まったりして、体の免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスは、再び目を覚まします。そして、神経を逆走して、再び、唇や口の周りの皮膚に現れ、あの、ピリピリとした痛みと、水ぶくれを伴う、口唇ヘルペスを「再発」させるのです。では、この「再発」した時、あるいは、症状が出ていない「潜伏期間」に、他人にうつすリスクは、あるのでしょうか。まず、症状が再発している時は、言うまでもなく、患部に大量のウイルスが存在するため、感染力は、非常に強いです。キスや、タオルの共有は、絶対に避けなければなりません。問題は、症状が出ていない、潜伏期間です。基本的には、感染リスクは低いと考えられていますが、実は、症状が全くない時でも、唾液中などに、ごく微量のウイルスが、排出されていることがある、という研究報告もあります(無症候性ウイルス排出)。そのため、ヘルペスに感染したことがある人は、たとえ症状が出ていなくても、体の抵抗力が落ちているパートナーや、免疫力が未熟な乳幼児との、過度な接触には、一定の配慮が必要かもしれません。ヘルペスとは、いわば「一生付き合っていく」病気です。その性質を正しく理解し、再発を防ぐための体調管理を心がけること、そして、再発した際には、感染を広げないためのエチケットを守ることが、自分自身と、周りの大切な人を守るために、不可欠なのです。