歯石といえば、一般的には白っぽい、あるいは黄色っぽいものを想像する方が多いかもしれません。しかし、中には黒っぽい色をした歯石も存在します。この色の違いは、一体何によって生じるのでしょうか。そして、なぜ歯石が黒くなるという現象が起こるのでしょうか。そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。歯石は、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)が、唾液や歯周ポケット内の浸出液に含まれるカルシウムやリンなどのミネラル成分と結びついて石灰化したものです。歯垢は、食べカスなどを栄養源にして細菌が繁殖した塊であり、これが硬くなったものが歯石です。歯石が黒くなる主な原因は、血液成分の関与です。特に、歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)の奥深く、歯肉縁下と呼ばれる場所に形成される歯石(歯肉縁下歯石)は黒っぽくなる傾向があります。歯周病が進行すると、歯茎に炎症が起こり、歯周ポケット内で出血しやすくなります。この出血した血液中には、赤血球の主成分であるヘモグロビンが含まれています。歯周ポケット内に潜む歯周病菌の中には、このヘモグロビンを分解する酵素を産生するものがいます。ヘモグロビンが分解されると、鉄分が遊離します。この遊離した鉄分が、細菌の代謝産物や歯周ポケット内の硫化水素などと反応し、黒色や暗褐色の硫化鉄などの化合物を作り出します。これらの黒っぽい色素が、歯石が形成される過程で取り込まれることで、歯石全体が黒っぽく着色されるのです。つまり、黒い歯石は、歯周ポケット内での出血と、それに伴う細菌の活動、そして血液成分の変化が複雑に絡み合って形成されると言えます。唾液由来の成分が主となる歯肉縁上歯石(歯茎より上にできる歯石)は、血液成分の影響を受けにくいため、比較的白っぽい色をしています。一方、歯肉縁下歯石は、歯周ポケット内の浸出液や血液成分を多く含むため、硬く、黒っぽい色を呈し、歯の根の表面に強固に付着しやすいという特徴があります。
なぜ歯石は黒くなる?そのメカニズム