歯が欠けたにもかかわらず痛みを感じない場合、その原因の一つとして「虫歯がゆっくりと進行していた」可能性が考えられます。虫歯の進行速度や状態によっては、自覚症状としての痛みが現れにくいことがあるのです。虫歯は、口の中にいる虫歯菌が作り出す酸によって歯が溶かされる病気ですが、その進行には急性のものと慢性のものがあります。急性の虫歯は進行が早く、象牙質が露出するとすぐに神経に刺激が伝わり、強い痛みを感じやすい傾向があります。一方、慢性の虫歯は、時間をかけてゆっくりと進行します。この場合、歯の神経(歯髄)が、徐々に迫ってくる虫歯の刺激に対して防御反応を示すことがあります。具体的には、歯髄の内部に「第二象牙質」や「修復象牙質」と呼ばれる新しい象牙質を形成し、神経を保護しようとするのです。この防御壁が作られることで、外部からの刺激が神経に直接伝わりにくくなり、痛みを感じにくくなることがあります。また、慢性的な刺激に神経が徐々に慣れてしまい、痛みの閾値(いきち:痛みを感じる最低限の刺激の強さ)が上がってしまうことも考えられます。このようにして、虫歯がゆっくりと進行し、歯の組織が徐々に失われていく過程で、ある日突然、強度の低下した部分がポロッと欠けてしまうことがあります。この時、上記のような理由で神経が保護されていたり、刺激に慣れていたりすると、欠けたことによる直接的な痛みを感じない、あるいは感じにくいことがあるのです。しかし、痛みがないからといって、虫歯が治ったわけでも、問題がないわけでもありません。むしろ、気づかないうちに虫歯が深くまで進行し、神経に近づいている、あるいはすでに神経が部分的に死んでいる可能性も否定できません。放置すれば、いずれ大きな痛みが出たり、神経を取らなければならなくなったり、最悪の場合は歯を失うことにも繋がります。歯が欠けて痛みがなくても、それが虫歯によるものであった場合、速やかな治療が必要です。自己判断せずに、必ず歯科医院を受診し、正確な診断と適切な処置を受けるようにしましょう。
ゆっくり進行した虫歯は痛くない?歯の欠損と感覚