歯が欠けても痛みを感じない原因の一つとして、稀ではありますが「エナメル質形成不全」という先天的な歯の異常が関わっていることがあります。エナメル質形成不全とは、歯の最も外側を覆うエナメル質が、生まれつき正常に形成されなかった状態を指します。この状態の歯は、通常の歯に比べてエナメル質が薄かったり、もろかったり、表面が粗造だったりするため、物理的な力に弱く、比較的簡単に欠けたり、摩耗したりしやすいという特徴があります。エナメル質形成不全の歯は、見た目にも特徴が現れることがあります。歯の表面が白っぽく濁っていたり(白斑)、黄色や茶褐色の斑点状になっていたり、表面に溝やくぼみが見られたりします。症状の程度には個人差があり、ごく軽度なものから、エナメル質が広範囲にわたって欠損している重度なものまで様々です。エナメル質形成不全の歯が欠けた場合、エナメル質自体には神経が通っていないため、欠けた範囲がエナメル質に限局していれば、痛みを感じないことがあります。しかし、エナメル質が薄く、その下の象牙質が露出しやすい状態であるため、欠けた部分から冷たいものや熱いものがしみたり(知覚過敏)、虫歯が進行しやすかったりするリスクは高まります。また、エナメル質がもろいため、一度欠けると、そこからさらに欠けが広がっていく可能性もあります。エナメル質形成不全が疑われる場合、あるいは原因不明で歯が欠けやすいと感じる場合は、歯科医院で相談することが重要です。歯科医師は、視診やレントゲン検査などを行い、エナメル質形成不全であるかどうかを診断します。治療法としては、欠けた部分の大きさや症状に応じて、フッ素塗布による歯質の強化、レジン(歯科用プラスチック)による修復、ラミネートベニアやクラウン(被せ物)による保護などが検討されます。また、エナメル質形成不全の歯は虫歯になりやすいため、通常よりも丁寧な口腔ケアと、定期的な歯科検診が非常に大切になります。痛みがなくても、歯の見た目や欠けやすさに気になる点があれば、専門家のアドバイスを求めるようにしましょう。