歯が欠けても痛みを感じない場合、その歯の「神経がすでにない(死んでいる)」可能性が考えられます。これは、過去に受けた歯科治療や、外傷などが原因で起こり得ます。歯の内部には歯髄(しずい)と呼ばれる軟らかい組織があり、ここには神経線維や血管が含まれています。この歯髄が、外部からの刺激(温度、圧力など)を感じ取り、歯に栄養を供給する役割を担っています。しかし、何らかの理由でこの歯髄が機能しなくなると、歯は痛みを感じなくなります。歯の神経がなくなる主な理由としては、まず「根管治療(こんかんちりょう)」が挙げられます。深い虫歯が進行して歯髄まで達し、炎症を起こしたり(歯髄炎)、壊死したりした場合、歯を保存するために歯髄を取り除く治療が行われます。これが根管治療であり、一般的に「神経を抜く」と言われる処置です。神経を取り除いた歯は、当然ながら痛みを感じる神経そのものが存在しないため、その後、歯が欠けたり割れたりしても、直接的な痛みは生じません。次に、「外傷による歯髄壊死」も考えられます。歯を強くぶつけたり、転倒したりして外傷を受けると、歯根の先端で血管が断裂し、歯髄への血液供給が途絶えてしまうことがあります。これにより、歯髄は徐々に壊死し、神経の機能が失われます。この場合も、歯が欠けても痛みを感じないことがあります。神経がない歯が欠けても痛みを感じないのは、一見すると問題がないように思えるかもしれません。しかし、神経がない歯にはいくつかのデメリットがあります。まず、栄養供給が途絶えるため、歯の組織が乾燥してもろくなり、健康な歯に比べて割れやすくなります(歯根破折のリスク)。また、痛みという警告サインがないため、もしその歯が再び虫歯になったり、歯周病が進行したりしても、自覚症状が現れにくく、発見が遅れてしまう可能性があります。さらに、神経が死んだ歯は、時間の経過とともに徐々に黒っぽく変色してくることもあります。したがって、神経がない歯が欠けた場合も、痛みの有無にかかわらず、必ず歯科医院を受診し、適切な処置を受けることが非常に重要です。放置すると、歯がさらに大きく割れてしまったり、感染が広がったりして、最終的には歯を失うことにも繋がりかねません。