根管治療は、歯の根の先に溜まった膿を取り除くことを目的の一つとしていますが、治療中に必ずしも目に見える形で大量の膿が出てくるとは限りません。治療を受けている患者さんの中には、「膿を出してもらっているはずなのに、全然出てくる様子がないけど大丈夫だろうか?」と不安に思う方もいるかもしれません。治療中に膿が目に見えて出てこない場合でも、いくつかの理由が考えられます。まず、膿の量がそれほど多くない場合です。根尖性歯周炎の初期段階や、慢性的な炎症が続いているものの、急性の症状(強い痛みや腫れ)が出ていない場合は、根管内に溜まっている膿の量が少なく、ファイルやリーマーでかき出しても、目に見えるほどではないことがあります。また、膿が非常に粘稠(ねんちょう:粘り気が強い)であったり、あるいは逆にサラサラとした漿液性(しょうえきせい:水っぽい)の浸出液が主である場合も、はっきりとした「膿」として認識されにくいことがあります。次に、膿の出口がすでに歯茎にできている場合(瘻孔:ろうこう、フィステルとも呼ばれる)です。歯の根の先に溜まった膿は、内圧が高まると、周囲の骨を溶かして歯茎の表面へと排出路を作ることがあります。この瘻孔があると、根管内の膿は持続的に体外へ排出されるため、治療時に根管内から大量の膿が出てくることは少なくなります。ただし、瘻孔があるからといって治療が不要なわけではなく、感染源である根管内の細菌を除去しない限り、膿の排出は止まりません。また、歯科医師が治療の初期段階で、根管内から膿を吸引したり、洗浄液で洗い流したりしているため、患者さんが直接的に膿の排出を視認できないこともあります。特に、ラバーダム防湿(治療する歯だけを露出させるゴムのシート)をしている場合は、口腔内への流出が防がれるため、膿が出ていることに気づきにくいかもしれません。重要なのは、目に見える膿が出てくるかどうかよりも、根管内の感染源である細菌が確実に除去され、清掃・消毒が徹底されているかということです。歯科医師は、根管内の状態(臭いや出血の有無、ペーパーポイントへの付着物の性状など)や、レントゲン写真、患者さんの自覚症状などを総合的に判断し、治療を進めていきます。