無意識のうちに行っている「歯ぎしり」や「食いしばり」といった癖は、歯に想像以上の大きな負担をかけ、歯が欠けたり、すり減ったりする原因となることがあります。これらの癖は、睡眠中だけでなく、日中の集中時やストレスを感じている時などにも起こり得ます。歯ぎしりや食いしばりの際に歯にかかる力は、通常の食事の際の数倍から数十倍にもなると言われています。この強力な力が、長時間にわたって繰り返し歯に加わることで、歯の表面のエナメル質に微細な亀裂(マイクロクラック)が生じたり、徐々に摩耗したりしていきます。エナメル質は人体で最も硬い組織ですが、このような持続的な強い力には耐えきれず、ある日突然、小さな亀裂が大きくなって歯の一部が「パキッ」と欠けてしまったり、すり減って薄くなった部分がポロッと取れてしまったりするのです。特に、奥歯の尖った部分(咬頭:こうとう)や、歯の側面、歯と歯ぐきの境目などが欠けやすい傾向にあります。また、歯ぎしりや食いしばりは、歯を欠くだけでなく、様々な口腔内のトラブルを引き起こす可能性があります。例えば、歯周病を悪化させたり、顎関節症の原因になったり、知覚過敏を引き起こしたりすることもあります。歯ぎしりや食いしばりは、ストレス、噛み合わせの不調和、飲酒、喫煙などが誘因となると考えられていますが、明確な原因はまだ完全には解明されていません。多くの場合、本人は無自覚であることが多く、家族に指摘されたり、歯科検診で歯のすり減りや特徴的な摩耗面(咬耗面:こうもうめん)を指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。歯ぎしりや食いしばりによる歯の欠損を防ぐためには、まずこれらの癖があることを自覚し、原因となり得るストレスを軽減したり、生活習慣を見直したりすることが大切です。歯科医院では、歯ぎしりや食いしばりから歯を守るために、就寝時に装着するマウスピース(ナイトガード)を作製することがあります。ナイトガードは、歯にかかる力を分散させ、歯や歯周組織、顎関節への負担を軽減する効果があります。もし、朝起きた時に顎が疲れていたり、歯が浮いたような感じがしたり、原因不明の歯の欠けやすり減りがある場合は、一度歯科医師に相談してみることをお勧めします。
歯ぎしり・食いしばりが歯を欠くメカニズム