歯に付着する歯石には、主に「黒い歯石」と「白い歯石」の二種類が存在します。これらは単に色が違うだけでなく、できる場所、成分、硬さ、そして歯周組織への影響度合いなど、多くの点で異なる特徴を持っています。これらの違いを理解することは、適切な口腔ケアを行い、歯周病を予防するために非常に重要です。まず、「白い歯石」についてです。これは一般的に「歯肉縁上歯石(しにくえんじょうしせき)」と呼ばれ、その名の通り、歯茎の縁よりも上に、つまり歯の表面に見える部分に付着する歯石です。色は白っぽい、あるいは黄色っぽいことが多く、比較的柔らかめで、歯科医院でのスケーリング(歯石除去)によって比較的容易に取り除くことができます。この白い歯石の主成分は、唾液に含まれるカルシウムやリンなどのミネラル成分です。歯磨きで落としきれなかった歯垢(プラーク)が、唾液中のこれらのミネラルと結びついて石灰化することで形成されます。特に、唾液腺の開口部が近い下の前歯の裏側や、上の奥歯の頬側などにできやすい傾向があります。白い歯石も放置すれば歯周病の原因となりますが、比較的初期の段階で見つかることが多いです。次に、「黒い歯石」です。これは「歯肉縁下歯石(しにくえんかしせき)」と呼ばれ、歯茎の縁よりも下、つまり歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)の奥深く、歯の根の表面に付着する歯石です。色は黒っぽい、あるいは暗褐色を呈し、非常に硬く、歯の根に強固にこびりついているのが特徴です。そのため、除去するにはより専門的な技術と時間を要します。黒い歯石の成分は、唾液由来のミネラルに加え、歯周ポケット内の浸出液や血液成分が大きく関与しています。歯周病が進行すると歯茎から出血しやすくなりますが、この血液中のヘモグロビンが細菌によって分解され、鉄分などが歯石に取り込まれることで黒く着色されます。つまり、黒い歯石の存在は、歯周病がある程度進行しており、歯周ポケット内で出血が起きているサインであると言えます。白い歯石は目に見える場所にできるため比較的気づきやすいですが、黒い歯石は歯茎の下に隠れているため、自覚症状がないまま進行していることも少なくありません。黒い歯石は歯周病を悪化させる強力な因子であり、放置すると歯を支える骨が溶け、最終的には歯が抜け落ちてしまうことにもなりかねません。